俺はなんばんぼし

釣具屋と不動産屋の

【番外編】親父の正義と私の正義

野良猫がみいみい言って、腹を空かせていたので、不憫だな、哀れだな、というある意味上から目線の感慨を抱き、それなら、といってコンビニエンスストア通称コンビニに走り、猫の餌をそういって猫の処に戻って、計548円(税込み)で買い求めた餌らを野良猫たちに与えると、彼ら彼女らは亡者のごとくがっついて次第にふくふくとしてきたので、ああ俺は良いことをしたなあ、とエゴイズムに浸っていると、後ろから「ぁにやってんだよ、おめえ」と悪罵が飛んできて、振り返ると酔った親父が喚いていて、曰わく、「野良猫に餌をやるな、癖になって此処に居ついてしまう、住民にとっては甚だ迷惑だ、だからやめろ、お前は惑乱の根源だ、偽善者めが」という意味の言葉を吐いていたが、自分は親父を無視していたので親父は張り合いがなくなったのか、悪態をつきながらどこかへ去り、自分は良いことをしたつもりが非難中傷の憂き目に会って内心複雑なキモチになったが、人のおこのう事というのはおしなべて善であると同時に悪であるということを強く思って、その基準というのはある行為の受け手によって揺れ動く頼りないものであり、自分は善きことも悪しきこともできるのだ、しているのだ、してきたのだ、していくのだ、という妙な覚悟じみた想念に駆られ、家に帰ってトリスを180ミリリットルがとこ飲んだところ大層に酔ってきたので、寝ることにする。
私はただ、生まれたいとも生まれたくないとも選べずに現にこの世に在る存在に対して、せめてもの刹那的な援助をしたい、そうすればなんとなく自らの言いようのない罪悪感から一時でも逃れられる、そう思ったから野良猫に餌を与えたのだった。
親父はまっこと、正しい。

文責:江戸川不動産(28)