俺はなんばんぼし

釣具屋と不動産屋の

第21回「ミステリー」

突然ですが昔、ネットで読んだ不気味なある話が気になってまた読みたいのだが、見つからない。内容は、
「大学構内で夜、人気のない場所に行ったらおかしな人物を見つけた。地面に座って、腰から上だけをぐるぐる回している。色んなサークルがあるからと気にしないでいた。数年経って大学に行った際、あんなものも目撃したなあと思い出して同じ場所へ行ってみたら、そいつが数年前と同じようにぐるぐる回っていた」
という話。
もしこの話を知っていたら、URLを教えてほしいと切に願う。


話は変わって、ここんところ日本ではSNSを介した誘拐事件が取り沙汰されているらしいですね。SNSのアプリケーションを使って、おっさんと少女が会ったそうな。
SNSという言葉はスマート・ホンが普及してからよくニュースで聞くようになったと思うが、ひと昔前、同じ類の事件では「出会い系サイト、出会い掲示板」という言葉をよく聞いていた。
言葉は違っても、機能や手軽さの進歩があるだけで、見知らぬ人と関わり合うという目的は変わっていないだろう。
今は出会い系サイトや掲示板はあまり聞かれなくなった。

 

自分はわけあって今タイに滞在しているのだが、周囲に知己の類もない。はっきりいって、周りがすべて見知らぬ人だ。いや、日本にいても見知らぬ人ばかりだが、日本での見知らぬとタイでの見知らぬは、見知らなさが違う。

そこで、自分と同じような見知らなさに困っている人がいないかとネットで探してみたら、あらら、ありましたよ。出会いの掲示板が。このサイトでは「明らかな出会い目的でこれを使うんじゃねえ」と注意書きされているが、スレッドをのぞくと明らかに異性との出会いを目的としていることが、ぷんぷんしているのである。

 投稿者は概ね駐在や旅行のためにひとりでタイにやってきた人で、何も分からんからおしえてほしい、日本語を話したい、遊べる人飲める人ボシュー、というのが多い。今の日本だったら知らない人とあえて交流するようなことは、そういうコミュニティが好きな人でなければあまり考えられないだろう。しかし、やはり異邦人となると日本では感じない心細さが顔を出して、こうした掲示板が賑わうとみえる。妙な連帯感がある。

掲示板を眺めていると、ある明らかな傾向が読み取れた。女の投稿には男が群がるが、男の投稿にはほぼ誰一人として寄ってこない。無慈悲なほどに、この傾向が顕著だ。不思議なのは、女に男からの反応があるならば、男に女からの反応も多少あって然るべきと思うが、そういったケースはほぼ見られない。悲しいことだが、これが現実だ。中には男の投稿でもなにかひっかかるフレーズがあるのか、反応をもらえる男もいるにはいるが(ただし女からのレスはほぼなく、同年代の男からのリアクション)。

 

さて、自分は男だ。これまでの先人が残した例証を閲するに、普通に投稿しても無視されるのがおちだろう。かなり運が良くて同年代のおっさん、同年代でないけど物好きなおっさんが反応してくれるかもしれない。しかし、おっさん達には悪いが、俺も男だ、できるならば女の子と出会いたい。それが男だ。

しかし、男ゆえにデータ上は非常に不利である。どうしたらよいのか。
自分はここに、お題「ミステリー」をその解として提示したい。

どういうことか。異性に魅力を感じるポイントについて乏しい知識を掘り返してみると、「ミステリアスな雰囲気のある異性に惹かれる」と見聞きしたことがあった。何を考えているのか図り知れないが、その謎さ不思議さゆえに強い興味を持つようになる、らしい。
考えてみれば、人は真理とか真相を知りたがる。宇宙や宗教に人が興味を持ち続けているのも、それらがどこまで考えたり突き詰めても、「分からない」からだろう。分かってしまうと、こんなものか、とそれまで持っていた張り合いがなくなってしまうこともある。

そういうわけで、この掲示板ゲームに勝つには、ミステリアスな雰囲気が必要だ。ミステリアス、ミステリーのそもそもの意味を調べてみると、『英語のmystery ミステリーは、ギリシア語の「ミューステリオン」を語源としており、神の隠された秘密、人智では計り知れないことを指している』とのこと(wikipedia)。また、日本語に訳すなら神秘、不思議といった概念で表される。
つまり、よく分からない感じ、謎っぽい、理由不明な人物像でいけば、勝率が高いのではないか。


以上から考えられた投稿文は次のようになる。
「はじめました。
昨日か一昨日から出張でバンコクに来ている男みたいです。年齢は21〜38で、天気と日経平均株価によってまちまちですが、気持ちは常に好好爺です。パパイヤ園の買収と電柱のボルト締めがしたいんですが、せっかくBangkokに存在してるから誰か共に往来しませんか?ちなみに職業は電話交換手。母の旧姓は餅米です。タイ米はパサパサしてますよね。
よろしくお願い志摩半島

mailaddress=cicada3301@ヂーメール、」


たぶん、これではだめだろう。ミステリアス、不思議をイメージしながら思いつくままに打ったものの、嘘が多すぎる。もし会えた時の整合性のとり方が非常に困難だ。

ミステリアスな雰囲気には多くを語らない、という面もある気がする。これを意識すると次のようになる。


「やあ。
私、来ました。
男で28。
夜、休日、暇です。
メールabc@Gm

乾き切った雑巾のような挨拶で、これもダメだろう。多くを語らなすぎである。日本人っぽくないし。
ならばと思い切って神秘にいくと、

「突然ですが、地球という惑星に生命が誕生する確率がどれほどのものだったか、ご存知でしょうか?
その数字は天文学的数字であるため、ここには書ききれませんが、海に時計の部品をバラバラに投げて、それが潮の流れで組み立てられる、それほど低いのだそうです。その地球で、今こうして見知らぬあなたと私は出会おうとしています。これは神の奇跡そのものです。神に誓い、神を讃えようではありませんか。
12/31 23:59に日本大使館の前で邂逅しましょう。今日も空には光の帯がはためいています。祝福のしるしなのです。」


ダメに違いない。
もうどうしたらいいのか分からない。きっと、この掲示板の誰しもが同じ気持ちだろう。それでもなお、男たちは今日も投稿し続ける。
知りたいと思っても知ることができず、会いたいと思っても会うことができない。
お釈迦さまが指摘した人間の困苦があらわれており、ある意味仏教国らしいですなあ。

とりあえず、冒頭の話を知っていたら情報モトム。


次回はおがさわら回、テーマは「遊び」です。

文責:江戸川区不動産(28)