俺はなんばんぼし

釣具屋と不動産屋の

第37回「うぐいすぱん」

うぐいすぱんについて書こうと思う。

自分はうぐいすぱんが好きなのね。
うぐいすぱん、などといっても別に鶯の身が入っているわけではない。うぐいすぱんの中には緑色の餡が入っている。その名もうぐいすあん(裏の成分表示によるとね)。実にみやびなネーミングである。渓流のせせらぎが聞こえてくるどこか知らない山荘の窓辺から山の青を眺めている、そんな響きがあるね。参るぜ。

うぐいすぱんと謳っていても入っているのは「うぐいすあん」なのだから正しくは「うぐいすあんぱん」なのではないか、「うぐいすぱん」では鶯が入っているのだと勘違いする人がいるのではないか、と指摘してくる人があるかもしれない。確かにそれはその通りだが、それでは趣向に欠けるというか、まったくみやびでない。「うぐいすあん」と言ってしまうとうぐいすに宿るパワーというか背景というかそういうものが失われてしまい、「なんだ、餡子ですか」とそっけない感じになる。ところが「うぐいすぱん」と謳うと、「やや、うぐいすぱんとな。鶯が入っているのかしら。でも鶯をパンに入れちゃうって、そんなことってあるかしら。ああ、めっちゃいいわあ。ミステリアス、っちゅうやっちゃあ。すっきゃわあ。わし鶯って好きなのよね、見たことないけど。わくわくするわあ」と大いに興味をそそられてパンを開けてみる、するとそこにあるのは鶯などではなく緑色した餡子であり「うぐいすってこういうことやんかあ、一本取られたわあ」などといった一幕を演じることができるのだ。その可能性が「うぐいすぱん」にはある。みやびであること、それが大事だ。そういうややこしさというか、素直一本になれないところ、道草を食うところ、そこがうぐいすぱんの魅力のひとつだ。いじらしい。

パン売り場を眺めると、チョコだのバターだのコロッケだのレーズンだのチーズだのカレーだのゴテゴテした文言があふれているのだが、その中においてきらり光るのが「うぐいすぱん」である。凛としたっていうか大和っていうか和っていうか、パンに親和性のなさそうな単語「うぐいす」の存在感たるや・・・。素晴らしいね、美しいね。

美しいものはこの世に少ない。
「でも、美しさを何に感じるかは人それぞれじゃないんですか? なんであなたの美しさを押し付けられないといけないんですか? 多様性の時代でしょ?」などと聞いてくる御仁がいるかもわからんが、とにかく美しいものはこの世に多くなくて、ゆえに、うぐいすぱんも美しいものであるから見かけることがこれ、少ないのだ。
ということはどういうことかというと、うぐいすぱんはあまり売られていないぱんなのだ。はっきり申し上げると、うぐいすぱんは人気がない、ちゅうことだと思う。人気があってじゃんじゃか売れるのだとしたらヤマザキパンも第一パンもうぐいすぱんを放っておくはずがなく、各メーカーからうぐいすぱんは定番のパンとして大々的に売り出されて、他社との差別化を図るために「高級うぐいすぱん」「天然酵母のうぐいすぱん」「ウグイスフランスパン」「しろいうぐいすぱん」「うぐいす型のうぐいすぱん」「押すと鳴き声が聞こえるうぐいすぱん」「うぐいすのひなぱん」「うぐいすミニクロワッサン」「うぐいすサンド」「うぐいすラスク」「うぐいすベーグル」などのうぐいす関連パンが出てくることが予想される。
ドサクサに紛れて「すずめぱん」「かもめぱん」「ぺんぎんぱん」「きつつきぱん」などの鳥パンシリーズを展開するメーカーもあるかもしれん。

しかし、現実にそんなことにはなっていない。ということは、この世はうぐいすぱんで儲けられる世界ではないということで、儲けられないのだからメーカーはうぐいすぱんを最低限しか生産しないのである。だから、パン売り場に並ぶ、というかすみっこにちんまりと置かれている「うぐいすぱん」は一層の輝きを放つ。数が少ないという事は稀少度が高いという事でもある。そのへんがまた、うぐいすぱん愛好家の燃えさかる情熱に油を注ぐ要素なのだ。

将来はうぐいすぱん専門店「ほうほけ堂」を京都太秦に開店したい。

 

文責:全日本うぐいすぱん普及委員会振興協会青年部 東京第三支部準会員の不動産屋

 

P.S.
気づくのが遅れたが、オガサワラが戻ってきた。大阪からこのブログを一緒に更新している当年30のおじさんである。冬の間は姿を見せなかったが、春になってその生存が確認できた。渡り鳥を迎えたような気持だ。渡り鳥迎えたことないけど。しかも無色、もとい無職になって戻ってきた。いいことだと思う。無職はこれ、誰しもが経験すべき時間だと思っているのね、私はね。生活の脱色はね、やはり人生のどこかでしておくに限りますよ。と思いますよ。いやあ、いいですね。
とりあえず、どて煮を送ってほしいですね。敬具。

 

追記
包装に書いてあるからひらがなで「うぐいすぱん」って書いていたけど、「ウグイスパン」のカタカナ表記の方が好きだね。エキゾチックさが増すね、ウグイスパン。