俺はなんばんぼし

釣具屋と不動産屋の

第93回「華美な美化」

カビでも培養したらものすごく効率がよさそうで、いっそのこと一室にカビの研究者を招いて賃貸業でも営んでみてはいかがでしょうか、社長。などと社長に提案したらどんな顔をするだろうか。
なんて考えてしまうほどに会社の廊下が暑い。植物園か、ハワイアンズのようである。こんなに廊下が暑く感じられるのは温度差によるもので、各階に設えられた扉の向こうはオーロラのくに、というと大袈裟だけれども、オフィースは快適な快調な室温を電気の力でもって保っており、アホーなことに「寒い」だのと宣う御仁まで現れるような始末である。人工的に寒がり、天然自然の暑さを倍加させている。世も末である。

しかしながら、たまにしか上がらない最上階のフロア、ここは廊下も非常にクールである。おえらが鎮座ましましているからではない。絵がかけてあるからだと思われる。誰が描いたものかまったく分からないが、とにかく赤い花の絵。セザンヌだのクールベだのストラヴィンスキーだのチャイコフスキーだのキルヒナーだのルノワールだの藤田嗣治だのエゴンシーレだのジョルジュスーラだのベルトモリゾだのマネだのモネだのミラーだのミレーだの、やはり会社の然るべき空間にはそういう有名どころを持ってくるべきだろう。見栄を切らないと話にならない。のに、よくわからない絵。ひょっとするとよくわからないのは己の無教養によるもので、もしかしたら他の人はみな、ああ、彼の作品ね、確か作成されたのは1659年から1672年ごろで当時彼は肺を患って生死をさまよっていたわ、その頃の人生に対する寂寥感や無力感とそれらゆえの自暴自棄とデカダンスがその時の彼のテーマ。そのように不格好にも生にすがりつく人間に対して、あるがままにそこにある花の姿と自然の器の大きさにひらめきを得たその感じがよく伝わってくるわ。感じるわ。などと鑑賞しているのかもしれず、そのことはあまりにも常識というか当たり前のことじゃない? って感じであえて口に出さぬ、そういうことなのかもしれないですな。

というのは諸説あるうちの一説で、とにかく自分にはこの赤い花の絵がよくわからない。分かっているのは、この絵を適切に保つためにこのフロアの室温も適温に保たれており、それにより廊下の気温をいやまして感じさせられることで不快指数が上昇し、カビの専門家を招致したらWing Wingなのではないかしら、と自分が感じている、そのことだけである。コギト・エルゴ・スム、というやつだ。われ思うゆえにわれあり、というやつだ。

アナ・アンガの絵を生で見てみたいが、検索するとアンガールズのことばかり出てきて、困っている。

 

文責:不動産屋

P.S. 自宅の冷蔵庫内で放置してしまった蒟蒻プリン(きなこ味)にカビが生えたことがあったが、あれは実にきれいだった。プリンの凹凸に青銅色のカビがきめ細やかに生えていて、近くで見るとアルプス山脈のミニチュアのようで。