俺はなんばんぼし

釣具屋と不動産屋の

第100回「TSUTAYAに通っていた私、いく私」

2年前から、TSUTAYAプレミアムというサブスクリプションサービスを利用している。月々1100円で旧作DVDが5枚まで借りられ、返却期限がない。誰の発案か知らないが、とにかくお世話になった。なっている。
今日も生きてる腐った毎日、明日も生きてく腐った毎日、みたいな感じで、今はもう流水の絶えた排水溝で干乾びている藻のごときうらぶれた日々を右から左に送っている自分にとってTSUTAYAはオアシスなんですよお、現実を忘れられるんですよお、アルパチーノやペドゥナやサモハンキンポーや笠智衆松田優作などを見てるとですねえ、奴らいいっすよ。
という話をシンガポールでリモートコンビを組んでいるおっさんに話したところ、店に映画を借りに行くなんて、なんて時代遅れなことをしているのだ君は、そんなことだから日本は落ちぶれるのではないだろうか、今はこれっすよ、これ、Wi-Fiっすよ、戯画っすよ、シンガポールは電波の時代なんだよね、ぶっちゃけ。と、そのおっさんはやたらと電波のメリットを享受する生活がいかに便利で利便でキラキラした生活であるかを強調してくるのだが、自分方には安定かつ割安のネット環境というものが諸事情により整えられておらず、がために、戯画を駆使してオンラインサービスでうひゃひゃと便利で利便なモダンライフを楽しむこともできず、いそいそと店舗に通うというアナログな行為を繰り返している。

幸いにして近所に店舗があるため、ちょいと自転車をこげばそこに現実を忘れさせてくれる世界が広がっており、この店舗さえあれば自分は一生をつぶすことができるだろう。そう思っていた。思っていたのだが。
TSUTAYAは何を考えていらっしゃるのか、よくわからないが、この近所の店舗を閉めるらしい。というか、もう閉まってしまった。
今年いち、悲しい出来事である。哀しい出来事である。かなしい出来事である。カナシイ出来事である。香奈C出来事であった。

とにかくショックであった。自分は自棄になって、ひとまずこのサブスクリプションサービスを解約して企業に月額1100円分の実損を与えてやろうか、哀しみ紛れに。などと思っていたが閉店の案内をよく読むと、他店でもサービスは受けられまする、と記載してある。自棄に流されて解約しなくてよかったものだ、文章はよく読むものだ、と思った。
しかし店舗の方はやや自棄を起こしているらしく、レンタル品の放出を行うという。レンタル品が売りに出されるそうな。他の店舗へレンタル品を回せばいいように思うが、店舗面積や人件費などの事情があるのだろうか。
企業の事情などどうでもよいが、自分のように店舗に通う者にとってはこれは祭りである。いや、別に通いの者でなくても祭りかもしれないが。とりあえず、非常に粋なことをするものだと思った。

夏の日も冬の日も通い、ここで知り、気に入った映画がいくつかあった。それを自分の所有物として持つことができる。仏教徒は、物に執着すな、と言うかもしれないが自分は下賤かつ下卑た人間であり佛陀の御教えなど薬にも毒にもできない人種である。
偉人の言葉を無視して、ぜひお気にを入手したいものだ、と願って毎晩目を瞑って夢を見た。体内になにかのメカニックな部品が数個入っている夢を見た。

放出が始まり、同居の者の協力もあっていくつかの戦利品を手に入れることができた。向後、これらに執着して生きていこうと思う。それがレンタル品の供養になるのではないだろうか。
以下、自家の本棚に並んだ面々である。

スパルタンX
五福星
フォレスト・ガンプ
摩天楼を夢みて
シャイニング
至福のとき
ニュー・シネマ・パラダイス
お茶漬けの味
一番美しく
狼たちの午後

まあだだよ
運動靴と赤い金魚
鉄男
北北西に進路を取れ
タクシー運転手
ショーシャンクの空に
ほえる犬は噛まない
ロッキー
ランボー 怒りの脱出
CUBE
水の中のナイフ
CD:アラカルト、MUSIC、アラモード(すべてフジファブリック

当初の狙いはささやかで「水の中のナイフ」だけだったのだが、人間の欲はこわいものである、次々と手は伸びた。
水の中のナイフは戦場のピアニストが一番有名なのだろうか、ロマンポランスキーというフランスの監督が撮っている。水の中は、確か長編処女作だったと記憶している。
湖に浮かべたボート上のやり取りが主なのだが、モノクロである。白黒なのだが、水辺の情景というか、なんとなく情景が色彩豊かに感じられて、それは役者や監督の力量に拠っているのだろうが、観ていてとても心地よい一本だと思っている。あの湖がどこのなんという湖なのか、いろいろと調べてみたが分かっていない。エウロップにあるのだろうが、いつか行ってみたいと願っている。

アルパチーノとジーンハックマンの「スケアクロウ」もできれば欲しかった。
ライターが切れたハックマンの煙草に自分の最後のマッチで火を点けるパチーノの冒頭シーンは、今の時代には合わないかもしれないが、ふたりの関係性をさりげなく確かにするものとして絶妙と思う。
映画に疎い自分はこの話でハックマンを知ったが、大柄な体躯に似合わずきめ細かな演技をする人物だと思い、とても好きな役者になった。
パチーノが病に倒れて、治療費を自らの貯金から捻出しようと計算するシーン(手帖を握ってグッとやるシーン)は痺れる。

至福のとき、に出てくる主人公のおっさん(役名本名ともに忘れてしまった)は、どこかで見覚えがある顔なのだが、それが知り合いの誰かは分かっていない。映画を見ていれば思い出すかも知れぬ、と思い求めた。内容もいい。

まあだだよ、は若き日の所ジョージが見られるので籠に入れた。内田百閒の話だ。所ジョージは、母校の大学の寮のある寮長に似ている。内田百閒は予備校時代の英語教師に似ている。

すべてについて何かしら書きたいことはあるのだが、長くなるので又にする(すでに十分長いが)。
今回手に入れられた上記作品のほか、眼には眼を、二十日鼠と人間ウイスキー、富豪熟女殺人事件、オーメン、ハチ公物語、子猫をお願い、スローなブギにしてくれ、ウーナ 13歳の欲動、家族ゲーム、ベンハー、カッコーの巣の上でセルピコニキータ、ハクソーリッジ、スポットライト、ゴーストワールド、理想の女、その男ゾルバタクシードライバー、冬の小鳥、プラトーン、セッション、チャイナシンドロームゴッドファーザー(1のみ)、蝋人形の館、ルーシー、胡同の理髪師、あぜ道のダンディ、ブルースリー、受取人不明、グッドウィルハンティング、八月の鯨、赤ひげ、パッチアダムス、荒野のドラゴン、とうもろこしの島、4分間のピアニスト、私はダニエルブレイク、リトル・ダンサー、友だちのうちはどこ?、ペルシャ猫を誰も知らない、ベニスの恋に勝つルール、など脳みその襞にこびりついた作品がいくつかある。いつかどこかでまた観られたらいいなと思う。

時代の流れでしかたないことかもしれないが、これから先もレンタルのリアル店舗は少なくなっていくのかもしれない。電波の波にやられて。それは個人的には不便でさみしく、締まりが悪い公園の水飲み場が閉鎖された野良犬のような気持ちなのだが、しょうがないことはしょうがなく、どこまでいってもそれはしかたのないことだ。
ひとまず、2年間通い続けたTSUTAYAにお疲れ様とありがとうを言いたい。

文責:不動産屋

 

追記:フジファブリックの、おそらくインディーズ盤だと思うが、「アラカルト」に入っている茜色の夕日はメジャーのものより好きになった。淡々と歌っているのが好きだね。