俺はなんばんぼし

釣具屋と不動産屋の

第109回「バースト+ポチャッコ=サモハンキンポー」

嗚呼、分かってくれとは言わないが、そんなに俺が悪いのか、ってララバイを荒川に投げたいような、今日もそんな一日であったが、荒川は、っていうか江東区および墨田区ならびに台東区そして足立区などは2024年12月5日夜、雨が降っており、と書くと東京都23区の東側一帯しか雨が降っていなかったような捉え方もこれ可能で、人によっては地球上の他の地域でも同時刻に降雨があるのではないか、少しばかり視野が狭いのではないか、っていうか江戸川区はどうなんだ、などと眉間にシワを寄せて宣ってくる人があるかも知らん。私が悪かった私は悪かった、世界中のどこかでおそらく降雨に見舞われ、あるいは僥倖を感じ、あるいは冬の雨に濡れそぼって背をまあるくし、またある者は夏の雨に潤うひび割れた大地をみて俺ハッピー、みたいなグローバルな感じで、別に東京都23区東側だけではなくオールアラウンザワールド的に空から水分が塊となって落下していた、そんで荒川放水路のほとりに立っていた自分にももちろん、その背にも肩にも雨が落ちていたのであります。

というか、ヤパリ、俺が悪いのだろうか、悪いのだろうなあ、やっぱり。
自分はまず間違いなくサラリーマン的に、働き奴的に無能なのだが、己の無能に自覚的であるならばその事実を上司なり社長なり会長なり株主連なりに訴え出て、「あのですね、正味の話、自分は無能であります、がために業務に滞り、いわゆる停滞っていうかですね、とにかくよくないんすよね、状況的に。お客さん待たせるし。稟議に30営業日くらいかかるし。管理方はフォーマットとやらの死守墨守に未来永劫こだわっておるし、意味というものがわかんないっすよ。正味の話。それなもんで、どうしたらいいのかなあと無能なりに考えてみたところ、おそらくは人員を増強する、代替者を立てる、など人事的な試みが必要なのではないか、っていうか必要なんすよ、思うんすよ、個人的には」などと早口でまくし立てて、部署体制の再構築・組織全体を俯瞰した人員配置などをボトムアップで促すべきなのだが、そしてなるべくそうなるように陳情しているのであるが、そうならない、そうなっていないというのは、てめえが結果的に無能者だからなのだろう。

などという妄念・概念・想念などが頭脳の灰白質を満たしているために、なんだか自分は私はあたしは自暴自棄、マニヤな舶来者でなければ読めない読み方をすると「ヤケ」になっているのであり、なんでかは知らぬがバーバーストライキ、いわゆるバーストに及んでいる。及んでいた、今日まで。

バーストとは字義通り文字通り、散髪に行くという人間自然の営みを意図的に我慢することで祈願・念願・切願などの成就することを神仏に希うことであるが、バーストをしていても当然髪は伸びる。そして邪魔になる、特に前髪が。自分は常に下を向いてうらうらと生きているタイプの人間なので長い前髪は重力に負けて常時垂れ、エモ系かつゴシック系のような相貌になり、いちいち手で掻き上げるのもしちめんどくさく、シーエムで見るような美形タレントがさらさらって感じで首を左右にいなす仕草、これを意図せずに身につけてしまったところ首を痛めた。
そうなってみてふと思うに、なぜバーストをしているのに状況はちっとも好転せぬのだ? もしかしてもしかすると、バーストに大願成就の効験はないのでは? このことに気づいてしまったらもう早く、棚の文具入れにあるハサミを手に、このハサミはポチャッコの絵が描いてあるのだがそれはどうでもよい、鏡の前に立ってざく、って感じで前髪を切り落としたぜ。鏡面を見ると、若き日のサモハンキンポーのような髪型の男が立っていて、明日の上司の顔が楽しみでならぬ。AM3:07。今日だぜ。

第108回「荒川と空港」

幾日も何日も、荒川に通い続けて、というか通りすがりに立ち寄り続けてやっと気づいたのだが、荒川は空港に似ているのだなあ。深夜の空港に。
深夜の空港は、って、地方の空港はこうじゃないかもしらんが、所謂ところのハブ空港、そう、例えば羽田空港なんかだと24時間、っていうか48時間か72時間くらいの勢いで昼夜を分かたずに空港が稼動しているのであり、むかし、72時間働けますか?って標語があったね、なんてことはどうでもよいが、とにかくハブ空港は一日中、それこそ文字通り字義通り一日ぢゅう動き続けている。その様はまるでマグロのような。

そんでもって、荒川。自家と職場の地理的関係上、荒川を沿って走る高速道路が荒川に面して向こう側にうつるのね。そして、高速道路上の、低圧ナトリウムランプのオレンジの光や、トラック野郎のぴかぴかが対岸に見えるのね、そしてそれらが荒川のみなもに映えて、映るのね。

眼前にキラキラしたものが、暗闇にぴかぴかとしたものが動いている。その様が深夜のハブ空港の滑走路に似ている。また、荒川の上には特になにがあるわけでもなく、凪ぎの時など茫漠たる平野にも見える。広大な面積を誇れるものは北海道か空港しかない。凪ぎにはミナモの反射も淡く、そして揺らぎ、それは陽炎のように、あるいは逃げ水のように踊り、夜の闇に紛れつつ映えて、まことしやかにきれいである。げに。

羽田空港の滑走路に光る、なんつうのか、方向指示光? 青や赤やそんな光が光る様に荒川の水面が見えて、それを自分は今まで心知らず楽しんでいたのかもしれん、旅情を、川の流れがとめどなく流れていくことと旅先での心細さと少しばかりの興奮を腐った日常に感じたがっていたのかもしれん、と思って夜の空を見上げると満月に近い月が明るかった。今夜は。っていうかもう4時か、昨夜の出来事である。