俺はなんばんぼし

釣具屋と不動産屋の

第64回「大阪24時」

 年が明け、早50日。一年が365日なので1/6が経過したわけである。最近ピザの配達バイトを始めた。

 

ピザの配達はいたってシンプルで、ほかほかのピザを50ccのバイクの荷台に詰め込み、アクセル全開で客の所に届けるのだ。最も肝要な事は早さ。素早くピザを送り届けて、すぐに店舗に戻る。早さこそが勲章の世界。

簡単な事じゃないか。のんのん。大阪の道は大変に入り組んでおり、一方通行も多い。google map でもとらえきれない裏道が多数存在する。これらの裏道をマスターしなければスピードキングの称号は手に入れられないだろう。シンプルにして奥深い、早さに命を懸ける男たちがピザ屋にいた。

 

ある日の事。夜の24時近く。私はピザを届けにスナックKAZUKOに向かっていた。ちょっとした駅に必ずあるスナックしか入っていない謎のビル。スナックビル。一回も入ったことがなかったので少しドキドキしていた記憶がある。

早く届けねば、と細い道を走っていた時、一台の改造軽自動車が凄まじい勢いで私の横を抜けていった。もうちょっとで接触するところだった。何という危険運転。そして速さで負けるわけにはいかない、とアクセルを全開にしたが、風のように軽自動車は走り去っていった。今回は見逃してやるぜとヘルメットの中でつぶやいた。

 

スナックKAZUKOにあと数百メートル、1台パトカーと見覚えのある軽自動車が止まっていた。先ほどの改造軽自動車だ。ゆっくりと横をすり抜けると運転者がお縄を頂戴されていた。見た目はクローズに出てきそうな感じの方であった。

速度超過ではお縄を頂戴されないはずである。なんでだ、と思った。運転者も

なんでだッ!

と叫んでいた。公務執行妨害というやつなのか。

国家暴力はやはり圧倒的だ、とドキドキしながらKAZUKOに足を踏み入れた。ここはどんな魔窟だッ!と緊張したが、KAZUKOの店内はいろんなフィギアが飾ってあってとてもポップであったし、KAZUKOも隣家のマダムといった感じですごく感じも良かったし、スナックビルも明るくきれい。今度個人的に来店しよかななんて思って帰路についた。さっきのパトカーどうなっているかしら、と同じ道を通ることにした。

 

パトカーは10台に増えていた。ものの5分くらいでこの集合力。圧倒的。圧倒的国家の力。

 

そこに一台の黒塗りのセダンが。

バンッ!

と3人のクローズに出てきそうな男たちが車から降り、パトカーの方に向かって歩いて行った。恐らく、仲間なのだろう。

この後どうなったのかは私も知らない。

 

 

 

ある日の夜の事。

おつりいりませんッ!

とピザの配達先で女性のお客さんに言われた。ちょっと憧れる一言であるが、

おつりは1円であった。

 

あうあうと固まっちゃったね、おいら。脳みそが老化してるのであろう。ちょっと前ならもうちょっと気の利いた返事が出来ただろうに、あうあうとしか言えなかった。1円というのも絶妙だったのか。

普通に、誤差出たら困っちゃうんで、もごもご

と雑魚みたいな返事をした。なんていうのが正解だったのだろうか、と今も悩んでいる。

 

 

ある日の夜の事。歯科医院に配達することに。夜ごはんにするのだろう、院長お疲れ様です、なんて思っていたが、出てきたのは女性3人。歯科助士のひとやらだろう。若いきれいな女性を間近で見てうれしい気持ちになった。注文のピザは三枚とサイドのメニュー。そのすべてにオプションでニンニクを増していたようだ。結構すごいニンニク臭。

商品を手渡し、おつりのやり取りなんかしていると、商品とともに奥に引っ込んだ女性の一人が、

口くっさ!口くっさ!明日は口臭ニンニク祭り!

と大声で歌いだした。

 

凄まじいテンションにあてられ、凄い元気が出た。大阪の女性はパワフルである。

2022年の初笑いであった。

 

 

大阪24時。

 

文責おがさわら(31、大阪、ピザの宅配バイト)