俺はなんばんぼし

釣具屋と不動産屋の

第43回「尻穴の衝撃×遠隔勤務=手塚治虫」

アナルインパクト、なる店をご存じだろうか。現実にそういった名前を掲げた店があるのかどうか、自分は知らない。もしかしたら、実在するのかもしれない。その類の性癖・趣味嗜好を持った人物であれば「ああ、あそこね」と合点合点するかもしれないが、自分が言っているこれは創造上のお店の名であって、町田康の小説集「夫婦茶碗」に収録されている「人間の屑」というタイトルの小説に出てくる店である。
ちなみに「アナルインパクト」とMicrosoft edgeで検索してみると、アダルトな商品がわんさと出てきた。むやみなことをしたものだ。おそらく、自分がこのワードを検索した、という事実はネットワーク上に然り記録がされており、「自分」という一個人と「アナルインパクト」は関連性があるものと認識されて、今後関連商品がウェブ広告で出てくるようになるのだと思う。油断のならない世界である。

それでとにかく、アナルインパクトが登場する「人間の屑」を自分は昨日読んでいたのね。久しぶりに。自宅で。テレワーク中に。
内容としては、タイトルに人間の屑、ってあるからまあ、あらゆる人間の中でもおそろしく怠惰で下劣で情けなく負け続けてO2を吸いCO2を吐いて植物どもの新陳代謝に貢献するしか能のないゲスクズゴミ野郎が出てくるのだろうなあ、と思って読み進めてみると、果たしてそういった男が出てきて、まさしく人間の屑だよ、あんたは。と創造上の人物の創造のお話だから気楽に読んでいたのだけれども、改めて自分の状況を考えてみると、テレワーク、つまり遠隔であってもwork。手元に落ちていた英和辞書をめくってみると、「仕事、作業、労働、任務、勉強、研究・・・」などと書いてある。
早い話が勤務中なのであって、本来は支給されたノートPCをバラバラ叩いて収支表とか稟議、なんてなものを書かなければいけない時間であるにも拘わらず、人間の屑、を読んで太平な気持になっている。他の社員は経済戦争に負けぬようにと汗を流しているというのに。あらぬ涙を流しているというのに。胃痛に耐えているというのに。
それでも読み終えてしまって思う事としては、登場人物もけっこうな人間の屑であるが、自分もまた、それなりの屑であるのだなあ、という事で反省。よし、自分は反省した。それではおもむろにハワイ支店の2021年5月度事業収支表でも拵えますかな、迅速かつ正確に。などとメモアプリに打ち込んで自分はExcelを起動させました。

20分後、自分はネットワーク上の波に乗っていた。いわゆるところのネットサーフィンでヤフオクの海を漂流していたのである。獲物は手塚治虫の漫画であった。ハワイの2021年5月度事業収支表に取りかかる前に読んだアナルインパクトの小話が強烈に脳みそのどこぞのヒダに焼き付いていて、表計算をしていても罫線を引いていても、ふと焼き付きがじくじくとうずき、あの店名・モーチーフ・コンセプトが再燃してたまらない。反省したのに。自分は反省した、などと嘯いてその実、まったく反省などしない卑怯な人物であった。その事実はある程度ショックで、不甲斐なき自己を嘆きながら繕った収支表は収支表としての体裁をなさず、だみだ。と思っていたら、あの店名とある漫画のシーンが、脳裏でピーン、のごとき感触を以てつながったのである。

そのまま無残な収支表を眺めつつ記憶をたぐりよせると、とおい昔に読んだ手塚治虫の漫画ではないのか、という気がしてきた。しかし、なんというタイトルのどんなストーリーだったのか、それが皆目わからない。「手塚治虫 尻 入る」などと検索エンジンにかけてみたが、めぼしい情報は見つからず。

記憶にあるのは、
男と女が逃げている。二人は悪漢に追われているのだ。女は不思議な力を持っており、追手を引き離してから巨大化して、尻を追手に向けて座りやつらを待ち受ける。追手はそれを女と判断できずに、目の前にある穴にはまり込んでいく。女は体内で追手を圧死させ、その股からは血が流れてー
という感じの一連のシーン。

あれは今思うと尻ではなくヴァギナだったのかもしれない。男と女がやがて結ばれちぎることを予告していたのかもしれない。
もし追手が入りこんだのがヴァギナであれば、あの店名との関連性は若干うすれるのであるが、連想してしまったものは仕方ない。今一度手塚治虫を乱読して見つけ出すしかない。でないと気が散ってどうしようもなく、永遠に収支表が完成しないことになる。

とりあえず下手な鉄砲を数打ちたい、って魂胆で40冊の全集をまとめ買いした。到着したらこの胸の、っていうか脳の焦燥をいちはやく抑えるために寝食をないがしろにして読みたい。そんな気持でいっぱいだ。
したところ、到着するのは金曜日とのこと。平日。またもや人間の屑になるのではないだろうか、と今から不安と期待と申し訳なさと恥じらいと冷静と情熱と善意と悪意と割り切り感にさいなまれております。
6月がおわる。

 

P.S.
今回購入した全集は40冊だが、これはほんの一部だそうで、確認はしていないが全体としては200冊ほどあるのではないか、とモッパラの噂である。ということは、運が悪ければ今回の40冊に探しているエピソードが入っていないかもしれない。収支表を完成させられる日は来るのだろうか。

 

文責:最近ブルーな不動産屋