俺はなんばんぼし

釣具屋と不動産屋の

第45回「猫山の小言アンダーザ換気扇」

このところ換気扇の下で煙草を吸っているのだが、その最中、なんでか知らぬが猫がしきりに鳴く。オリーブのような緑色の眼をぢっと自分に向けて。

そんなとこで煙草吸わんでほしいのだけれども。毛えに匂い、つくやんかあ。
なんて感じに言いたいのか。あるいは、

最近、朝からどこも行かんでずっと部屋の中にいるみたいだけど、仕事、馘になったの? そうなの? 甲斐性のない人に飼われたもんだ。こりゃ。
なんて感じに言いたいのか。あるいは、

大塚製薬の自販機ってなかなか見かけないよね、俺エネルゲン好きなのによ。ってあんたこの前つぶやいてましたけど、なに? そのエネルゲンって飲み物は、美味しいんですの? たまには私もそれ飲んで、エネルギーを摂取したいのですがね、いつも水道水ですし、わたし。
なんて感じにいいたいのか。あるいは、

君はそうやって煙草を燃焼させ、紫煙を発生させることに金銭を費消しているようだがむなしい気持にならないのかね。/いえ、しかし、お釈迦様が仰っているように一切は空なのではないでしょうか、この世のすべては諸行無常、万物流転で森羅万象、つまり僕が言いたいのはね、すべては結局のところ無なんですよってことで、すべてが無なのだからむなしい気持、なんてものもこれ、あり得ないわけで、人類のあらゆる困苦は空である事象を空と認識できないところに起因するんですなあ、因果なことですなあ、あわれなりホモサピエンス、といった感慨が胸に満ちますなあ。/そうやって詰問されると訳の分からない妄言を駆って話を曇らせる、そういうところが君の至らない性質だと思いますがね、いわゆる詭弁っていうのかね、人間の言葉では。やれん。
なんて感じに言いたいのか。あるいは、

最近の人間の世の中は、右も左も敵ばかり、ってくらいに寛容なハートがなくなっているみたいだけど、煙草をめぐる議論は異教徒のいがみ合いのようにどこまでいってもホライズンな状態ね。煙草を自由に吸う権利、煙草を勝手に吸わされない権利。権利って、なんなのかしらね。これって人間の発明品なのよね。なんで自分たちで作ったものにやいのやいの言ってるのかしら。暇なのね、きっと、人間て。
なんて感じに言いたいのか。あるいは、

ちょっと。そろそろCFの備蓄が切れそうなんだけど。ええ、CFってなにかって。キャットフードのことに決まってるじゃないの。そのくらいわかりなさいよ。あほね、やっぱり文学部卒ってあほだわ、あほの塊すなはち阿呆之権化といっても言い過ぎじゃないわね。そんで? そのあほが今度はどんなCFを持ってきてくれるのかしら? 今食べているものは控えめに言って私の口には合わないわ。どうして3年も世話をしておきながら私の好みを完璧に把握することができないの? 玉無しね。そりゃ、猫は気が変わりやすいって一般に言われてるわよ。そして私は猫だから、気が変わりやすいわ。昨日は、おいしいみゃ、ってはぐはぐ食べたものでも今日になったら嫌いになるの。そういうものなの。そういうことも含めて私を理解して可愛がらないといけないのよ、あんたは。それができてこそ世話係の存在意義が生まれるってものでしょ? その粗末な脳みそで1μmでも理解できたらさっさと新しいCFを持ってきなさいよ。シーバとかモンプチとかそういう缶のものにしなさいよね。
なんて感じに言いたいのか。あるいは、

いや、このところ雨が続いて参りますなあ、実に。なんて、わたし猫でずっと家にいるからあまり関係ないんですけどね。でもまあ、この湿気、これには正味の話まったく閉口しますなあ。ね。ほれ、見てくださいよ、私の毛並み。こう、ペターって寝ちゃってますでしょ。湿気が高いと毛の方もだるいそうで、こう、じめじめっとしちゃうんですなあ。いやはや。
なんて感じに言いたいのか。あるいは、

素の敵と書いて、素敵。べらぼうに良好な感じだ、マーベラスだ、と心の内を明かしたくなる時などに思わず「素敵」、とつぶやいてしまうのがあんたがた人間だが、なぜこんなにもポジティブな意味の言葉が「素」の「敵」と書くのか、素の敵って「あるがままの敵」とか「自然に、さりげない感じを醸しつつ敵」とかってことかなーと私思うんですけど、「敵」って基本的に攻撃とか迫害とか排斥とかしてくるじゃないですかあ、はっきり言ってネガティブな存在じゃないですか、あくまで自己中心的に考えてみますとね。あの、そのへんはどうなってるんですか。どう考えているんですか。人間として、日本人としての見解を伺いたく存じ上げます候。敬具。

なんて感じに言いたいのか。あるいはー

 

文責:不動産屋(うごかずうぶや)