俺はなんばんぼし

釣具屋と不動産屋の

第55回「角度に関する雑感」

自転車に乗りながらゆるやかで長い坂道を下っていると、なんとも言えない戦慄がはしる。こうした坂道ではペダルを踏みしめることなく自転車が進んでいく。自分の意志に関係なく。それが怖い。何もせずとも勝手に前に進んでいく、いや、進まされる強引さがあるのではないか。「ご了承お願いいたします」「ご理解ください」「ご協力感謝します」といった一方的でかつ人畜無害な傍若無人さのベールをまとった感じがあって、自分はそれがもうなんだか。実感のないままに物事が進んでいく、というのは怖いですよ。

 

同じ理由でエスカレーターも好きでない。エレベーターはよい。これは垂直に移動するが、人間にはできない動きをしているのであって、頼ることに不自然さがない。しかし、エスカレーターは斜めに移動する。階段を自分の足で上がっていくときも斜めに移動していく。同じ動きをするのに階段が自分の足で踏みしめる感触があるのに対し、エスカレーターはその実感がないままに目的地へ自らを運ぶ。勝手に運ぶ。これを恐れと感じるのはおかしいだろうか。