俺はなんばんぼし

釣具屋と不動産屋の

第70回「演技の上下に暗いけど、ますみに惚れてゐる私」

映画「赤ひげ」を観ていて何かしら考えたことがあったのだが忘れてしまった。終わり方は割とよかったと思う。赤ひげと安本の直線的ではない親愛が感じられるシーンで、最後の台詞が「ふん」なところもナイスだと思う。

映画を観ていて演技がうまいなあと思うのは、たいてい古い映画か邦画以外だ。
近年の邦画にもいい演技はあるはずなのだが、あまりその良さを自分は感じられない。
別に過去に演技の経験があるとかそういうことはないのだが、好きな演技と好きでない演技の境界線が自分の内にある。
古い映画や邦画以外の演技が好きだ、ということは、見慣れない人間のやり取り、違和感を感じる演技に自分は演技以上のリアルを感じるのかもしれない。
当たり前だが、自分が実際に生きている世界はまったく見慣れているものだ。そして近年の邦画の演技はある意味でうまいと感じる。現実に即している。だが、いい演技だとは感じられない。彼ら彼女らの演技は、自分が実際に生きている見慣れた世界、現実の延長線上にあるのだ、とどうしても感じてしまっている気がする。リアルに演技することで逆に演技から遠ざかってしまっているのではないだろうか。

もしかしたら、古い映画や邦画以外で自分が「いい演技だなあ、役者だなあ」と思っているものはただ自分が見慣れていないものをありがたがっているだけ、演技を演技として判断・批判する能力がないだけ、それだけだ。という可能性もある。
まあおそらくこの線が真相に近しいのだろうが、邦画で名女優をひとり挙げろ、と言われたら、自分は迷わずに春川ますみの名前を挙げるだろう。発話のイントネーションや語尾の機微、役柄に合った動作のひとつびとつが実にナイスである。正直いって美人形ではないと思うが、非常に印象的な女優だと思う。スローなブギにしてくれの役で、セブンスターの包装を開けるシーンがあった。ほれぼれとせずにいられない。歯で紙包装をちぎって床にはき捨てる演技があんなにうまい人は、この世にふたりといないのではないか。実にナイス。

 

文責:不動産屋

※そして今日も「季節の変わり目」について書くのを忘れたのであった。