俺はなんばんぼし

釣具屋と不動産屋の

第89回「冷めやらぬ熾を抱いて歩け」

なじみの中華料理屋のおやじが哈爾浜の出身らしい。哈爾浜と書いてハルビンと読む。似た漢字の蛤(はまぐり)の「は」と海浜(かいひん)の「浜」からしハルビンの要素を感じられぬのだが、とにかく哈爾浜でハルビンハルビンは中国の割と奥の方、申し訳ないがイメージとしては砂漠。内陸に位置して大陸性の気候を強く帯び、極めて夏暑く冬寒い、要するに海から遠くて全体的に埃っぽい、乾燥した大地、という感じがするのである。川の近くはそうでもないのかもしれないけれども。
などといったらハルビンのおやじに嫌な顔をされるかもしれないが、そういう土地だからこそ、行ってみたいものだと思う。
日本は北海道と沖縄、少々の島しょ部をのぞいてそのほとんどが温帯湿潤気候区に属し、平たくいうと、季節により湿り潤う時期がある、という感じだ。乾燥した季節というものはあるが、一年のほとんどの期間で乾燥しがちな場所・地域というものは、そうないと思う。だから、乾燥がベースになっている土地というものに好奇心がわく。
また、そのような中国の奥地からジパングに繰り出してくる、というのはなかなかないのではないかな、と思う。手元に地図帳が見当たらないので日本からどのくらい離れているのかすぐには分からないが、札幌から那覇くらいあったのではないだろうか。この感覚はおそらく島国民族の我々には到底分からないものだろうが、とにかくもんのすごい移動になるはずだ。上海北京から来るのならまだしも、ハルビンだ。

だから、というわけではないが、このおやじの作る中華料理は総じて実に美味である。もちろん、日本人の舌に多少迎合している部分はあるかもしれない。それでも、どんな経緯があったか知る由もないのだが、このおやじがはるか彼方にいくばくかの郷愁を置いてきて、東京の片隅で郷土料理を日々こしらいて生きていることを思うと、なんとなく美味がいや増すのである。

中国の内陸にあった砂漠、タクラマカン砂漠だったか、ゴビ砂漠だったかあやふやなのだが、とりあえず砂漠というものに行ってみたい。それは現実への甘えなのだろうか。

P.S.
猫は時々、フェルメールの顔をする。

 

文責:不動産屋(いたら12年目)