俺はなんばんぼし

釣具屋と不動産屋の

第102回「猫のスキーム」

飼い主を好いていない猫はその者がかの猫の名を呼ばっても無視する、などという電子網記事を読み僕は安堵した、というのは自分方で昼夜の世話をしている猫に向かってその名を呼ぶと「みい」あるいは「みゃ」と鳴くからであって、そうなると僕はこの猫に好かれているということになり、それで僕はハッピーかつラッキーなのだが、どうも腑に落ちないことがある、というのは上の関係は互いに好き合っている関係性、いわば相思相愛っていうか比翼連理っちゅうか、とにかくラブ安堵ピースなリレーションを結び持続可能なパートナーシップを締結していると言っても過言ではない気がするのだがそれはホモサピエンス側の身勝手な幻想なのだろうか、それでも時に猫は無視するのである、ってそう、たとえば部屋のすみっこに奴がいるケース、あるいはやや高い場所にいて傍らに鈍器や割れ物などが鎮座しているケースね、そういう時に奴は僕のいう事を無視するのである、具体的にいえば前者だと部屋のすみっこというのは垂直に結合された壁がくの字型にぐるりとしていますよね、それで奴は猫なもんで、猫というのは壁とみると傷つけたくなってしまうらしく、以前なぜ君は壁を傷つけるのか、とふと気になって、みたいな雰囲気を作って猫に聞いてみたところ「別に理由はないですけど、そういう決まりなんで、こういうスキームなんで」と、役場の役人のような返答をしてきたためその理由はいまだ定かではないが、とにかくそういうことになっているらしい、んで、決まりに従って奴は壁に爪をたてるので僕としてはそれはやめてほしいなあ、という気持がハートにむらむら湧いてきて、やめてくれんか、と実際に丁寧に穏便に言うのだけれども、聞こえていないフリをして壁が傷ついていくんだね、壁が傷むと将来この部屋を出る時に高額な原状回復費用を請求される可能性が高くなり、財布は軽くなり、米塩が尽き、精魂も尽き、最終的に経済的なクレジットを失ってみんなで住処を失い、夜の空に月、なんてシナリオも考えられるというのに、猫は壁を傷つけてゆくんだね、そんで後者も似たようなもので、猫というのは高所に置かれた鈍器や割れ物とみると前肢でもって落としたくなってしまうらしく、以前なぜ君は鈍器や割れ物を高いところから落とすのか、とさりげない雰囲気を装って猫に聞いてみたところ「別に理由はないですけど、そういう決まりなんで、こういうスキームなんで」と、民間企業の管理方のような返答をしてきたためその理由はまだ定かではないが、とにかくそういうことになっているらしく、決まりに従って奴は前肢でそれらを落としにかかるので僕はそういうことはやめてほしいなあ、というのは利己的な理由によるのでなく下階の人に迷惑がかかって文句を言われ僕の心がげしゃげしゃになるから、って結局これは利己的な理由かもしれないが、とにかく一応、やめてくれんか、と実際に丁寧に穏便に言うのだけれども、聞こえないフリをしてそれらは落ちていくんですね。これまでそして明日からも。